シンポジウム

第2回やなせたかし文化賞

「良心的な子ども文化の振興のために」
読売新聞広告記事(2021年12月25日発行) 補強版

「アンパンマン」の作者、やなせたかし(1919~2013年)の遺志を継ぎ、子どもための優れた作品を制作した個人・団体を顕彰する第2回「やなせたかし文化賞」の受賞者が、いよいよ2022年2月6日に決まります。
賞の発表を前に審査を務める選定委員9人に、やなせとの思い出や、賞への思いを語ってもらいました。
また第1回やなせたかし文化賞大賞を授賞したtupera tupera(ツペラツペラ)からの特別コメントも掲載します。

里中満智子委員長 インタビュー動画公開

インタビュー回答者

  • 選定委員

    内川 雅彦

    うちかわ まさひこ

    高知新聞社 編集局 編集オピニオン室
    • QUESTION1
      やなせたかし文化賞の意義
      内川
      優れた創作を表彰する章は数多くなりますが、本賞の特徴は「子どものため」の「良心的」で優れた作品に贈る点です。良心的といえば、「正義」「思いやり」「勇気」といった言葉が浮かびます。「アンパンマン」をはじめとしたやなせ先生の作品の世界とも共通します。漫画、イラスト、作詞、商業デザインなど幅広く才能を発揮した先生の名を冠した賞らしく、多くのジャンルから子どものための良心的で優れた作品を選び、広く知らせることだと考えます。
    • QUESTION2
      やなせたかしの思い出
      内川
      やなせ先生がかつで在籍した高知新聞社で、やなせ先生によるイラスト入りの月2回連載「オイドル絵っせい」(「オイドル」はやなせ先生の造語で「老いたアイドル」の意味)を亡くなられる2013年10月まで、4年半担当しました。筆が速い上、常にこちらの都合を配慮してくださり、原稿はまとめて数回分を届けてくれました。迷惑をかけないようにと亡くなる直前まで病室で執筆されていたと聞いたときは驚きました。仕事に対する真摯な姿勢、心遣いには頭が下がります。
    • QUESTION3
      やなせたかしが文化賞に込めた思いとは
      内川
      若い世代を育てようという気持ちは人一倍強かったと思います。遺志に基づく本賞だけでなく、高校生が参加し毎年夏に開催される「まんが甲子園」、小学生から一般まで応募できる「4コマまんが大賞」の創設も提唱し、私財を提供し支援し続けてきたことでも分かります。70代で「アンパンマン」がヒットし遅咲きだったご自身の経験も重ねて、才能に恵まれた人材を早く発掘するきっかけにと考えられたのではないでしょうか。
    • QUESTION4
      コロナ禍における「子どもの文化」について
      または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは
      内川
      感染を防ぐ、人との距離をとるといったことが日常的になり、人との接し方や生活全般にさまざまな影響が出ていることと思います。
      こんな時だからこそ、人にやさしく、思いやりをもって助け合う、さまざまなことに想像力を働かせるといったことの大切さを子どもたちに伝え、大切にしていく必要があります。
    • QUESTION5
      やなせたかし文化賞の授賞者に対して望むこと
      内川
      やなせ先生のやさしさやユーモアは、寂し思いをした幼い頃、戦争体験、「アンパンマン」がヒットするまでのあいだなど、さまざまなご苦労が根底にあるのではないかと思います。創造物そして優れているだけでなく、子どものためを考え、正義、やさしさ、ユーモアといったやなせ先生らしさを感じさせる作品と作者に本賞を贈り、それを通じて本賞の価値が高まるように願っています。
    • QUESTION6
      コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ
      内川
      悲しいことや寂しいことが本当に多かったと思います。一方で、コロナ禍で本当に大事なこととは何かと考えたり、人のやさしさに触れたりしたこともあったのではないでしょうか。
      つらいことを経験した分、心が強なり、人に優しく、物事をよく考えるようになれると信じています。おなかをすかせて困っている人に、顔を食べさせ助けるアンパンマンを生み出したやなせ先生も、多くの悲しい、つらいことを乗り越えています。
  • 選定委員

    宇野 亞喜良

    うの あきら

    イラストレーター
    • QUESTION1
      やなせたかし文化賞の意義
      宇野
      ユーモアとウィットのある文化の繁栄、そしてその格調を上昇させること
    • QUESTION2
      やなせたかしの思い出
      宇野
      やなせたかし作の「霧野仙子」のイラストレーションと造本デザインを任されたこと。
      10mmが12mmと15mmでできている定規をいただいたことなどがあります。
    • QUESTION3
      やなせたかしが文化賞に込めた思いとは
      宇野
      思わず“口笛”がとびだすようなユーモラスで、明るい社会に向けたクリエイティビティ― ではないでしょうか。
    • QUESTION4
      コロナ禍における「子どもの文化」について
      または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは
      宇野
      それこそ、やなせさんお得意の出版や動く映像のジャンルで人間的な感動を共有させる文化を創造することでしょう。
    • QUESTION5
      やなせたかし文化賞の授賞者に対して望むこと
      宇野
      クリエイティビティの高い創造者であること。
    • QUESTION6
      コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ
      宇野
      いつかころっとコロナ禍はなくなります。マスクをしたり、あまいわいわいしないで、その日を待ちましょう。
  • 選定委員

    梯 久美子

    かけはし くみこ

    ノンフィクション作家
    • QUESTION1
      やなせたかし文化賞の意義
      単なる顕彰にとどまらず、子どものための文化を創造し発信する側と受けとり広げる側をつなげともに成長していくきっかけとなるものであると考えます。
    • QUESTION2
      やなせたかしの思い出
      雑誌「詩とメルヘン」(やなせたかし責任編集)の編集長と編集スタッフとして多くの時間をともにしました。若くて貧しくまだ何者でもない表現者たちに、やなせ先生は本当にやさしかった。それは私のような駆け出しの編集者に対しても同じでした。フリーランスになりたての頃、仕事がなかった私に、ご自身の絵本の編集の仕事を任せてくださったこともあります。
    • QUESTION3
      やなせたかしが文化賞に込めた思いとは
      子どものための文化には、さまざまなジャンルがあります。ジャンルを横断する幅広い仕事をなさったやなせ先生は、多くの分野の表現者が影響を与え合い、高め合い、それによって子どもたちが幸せになるような賞のあり方を望んでいらしたのではないでしょうか。
    • QUESTION4
      コロナ禍における「子どもの文化」について
      または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは
      大人が「子どものものはこのくらいのものでいい」と考えず、最高のものを精魂込めて作りあげることが以前にも増して求められていると思います。
    • QUESTION5
      やなせたかし文化賞の授賞者に対して望むこと
      それまでと同じように誠実な仕事を。賞をきっかけに新しい読者や観客が増えればうれしいです。
    • QUESTION6
      コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ
      つらい時期を経験した人は、苦しい思いをしている人の気持ちを理解できるようになります。それは生きていくうえで、とても大事なことです。
  • 選定委員

    田島 真紀

    たしま まき

    認定NPO法人高知こどもの図書館館長
    • QUESTION1
      やなせたかし文化賞の意義
      田島
      子どもの文化、芸術に携わる全ての方々にとって大きな励みになる賞。時代を越えて多くの人から愛されるものを創るというモチベーションにもつながると思います。
    • QUESTION2
      コロナ禍における「子どもの文化」について
      または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは
      田島
      子どもの成長に寄り添いつつ、新たな世界へいざなうもの。共感の喜びやその大切さを伝えることが重要な要素ではないでしょうか。
    • QUESTION3
      やなせたかし文化賞の授賞者に対して望むこと
      田島
      「すべての芸術、すべての文化は人を喜ばせたいということが原点」というやなせ先生の言葉に通じる作品を創る方や団体で、さらにその精神を受け継ぐ創作活動をしていること。
    • QUESTION4
      コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ
      田島
      みなさんの心の中には目に見えない素晴らしいものがたくさんあります。それは、例えばやさしく思いやりがある気持ちや、物事をやり通す強い意志などです。今、生活の中で様々な制限がありますが、自分の心を守り、周りの人を大切にしながら、未来に向かって進んでいってほしいと思います。
  • 選定委員

    立原 えりか

    たちはら えりか

    童話作家
    • QUESTION1
      やなせたかし文化賞の意義
      立原
      夢みること、空想することが、どれほど大切で幸せなことかを、子どもにも大人にも知ってほしい、広めてほしい…と願って多くの仕事をしたやなせ氏を決して忘れないことでもあると思う。
    • QUESTION2
      やなせたかしの思い出
      立原
      歌って踊ってのステージが楽しかった。歌も踊りもそれほどうまくなかったけれど、見る者を楽しくしてくれる術は最高だった。
    • QUESTION3
      やなせたかしが文化賞に込めた思いとは
      立原
      夢みたらあきらめないこと。
    • QUESTION4
      コロナ禍における「子どもの文化」について
      または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは
      立原
      気持ちの良いものすべてに触れてほしい。大好きな何かを見つけてのめりこんでほしい。
    • QUESTION5
      やなせたかし文化賞の授賞者に対して望むこと
      立原
      授賞を生涯の宝として、もっともっと大きくなってほしい。
    • QUESTION6
      コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ
      立原
      コロナに負けないよう、手洗い、うがい、マスクもつけて、体も心もに元気ですごしてほしい。
  • 選定委員

    早川 史郎

    はやかわ しろう

    作曲家
    • QUESTION1
      やなせたかし文化賞の意義
      早川
      やなせたかし文化賞は、子どもの文化に関わるすべての人たちの目標となり、力強いエネルギーを湧き立たせてくれる。
      そしてそれは“子ども”の本質に迫る大人たちの純正で一途な思いと働きに支えられている。
    • QUESTION2
      やなせたかしの思い出
      早川
      昭和40年代、鈴木出版の幼児教育の仕事で地方公演を何回もご一緒したことがある。
      日本童謡協会「童謡祭」としても同席し、演奏するすべての曲に即興でイラストを描き映写する企画を実現してくださりそれが10年も続いた。
      またその童謡祭でやなせ作詞「アノコちゃん」を作曲した。
    • QUESTION3
      やなせたかしが文化賞に込めた思いとは
      早川
      やなせたかしさんは文化賞のことをずーっと思っていたと思う。
      素晴らしい賞にして喜ばせてあげたい。
    • QUESTION4
      コロナ禍における「子どもの文化」について
      または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは
      早川
      大人が「これは良い文化だ」と考えたり決めたりしていくことは今の時代とても難しい。ただ子どもの感性の領域に大人として深く関わることだけだ。
    • QUESTION5
      やなせたかし文化賞の授賞者に対して望むこと
      早川
      授賞された方はひたすら子どもを見つめ子どもとともにある自分を感じてほしい。
    • QUESTION6
      コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ
      早川
      時間を大切にしよう。私たち人間は物理的な時間は変えられないけれど、自分の心の中にある時間は動かすことができるのだ。
  • 選定委員

    牧野 鈴子

    まきの すずこ

    イラストレーター
    • QUESTION1
      やなせたかし文化賞の意義
      牧野
      デジタル文化が進む中で、絵本・漫画・詩・音楽・演劇・アニメーション…などその芸術的活動に尽力している人・団体に光を当てることでその存在が広く認知されて子どもたちに本のページをめるく楽しさ、演劇やアニメーションなどを皆で一緒に観ることで共感しあう喜びなど味わうことで子どもの心の豊かさ、やさしさを育むことを願っています。
    • QUESTION2
      やなせたかしの思い出
      牧野
      雑誌「詩とメルヘン」(やなせたかし責任編集)の企画で、新人イラストレーターのアトリエ訪問ということで当時借りていた私の古い小さな一軒家に編集の人と一緒に取材に来て下さって古い着物をカーテン代わりにしたり若くして貧しいイラストレーターの貧しいながらも工夫したインテリアを面白がってくださったみたいで楽しい思い出です。
    • QUESTION3
      やなせたかしが文化賞に込めた思いとは
      牧野
      子どものための芸術的文化活動に光を当てることでその発展と向上を願い子どもたちにそれを提供することで子どもの心の豊かさを育むことでしょう。
    • QUESTION4
      コロナ禍における「子どもの文化」について
      または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは
      牧野
      コロナ禍で人とのつきあい、野外での遊び、美術館に出かけたり演劇を見る機会などが制限されてもっぱらパソコンなどのデジタル文化に頼る暮らしに子どもたちが慣れてしまうことに不安を感じます。
    • QUESTION5
      やなせたかし文化賞の授賞者に対して望むこと
      牧野
      今、表現されている芸術的活動をずーっと大切に続けていって欲しいと思います。
    • QUESTION6
      コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ
      牧野
      コロナ禍では学校の催事が中止になったり友だちと会う機会や外出が制限されたりと辛い思いが続いていると思いますが、そんな中でも、自分の好きなことに出会って、調べたり、考えたり、楽しんだり…熱中できるそういう時間を大切にして、乗り切ってくださいね。
  • 選定委員

    山根 青鬼

    やまね あおおに

    漫画家
    • QUESTION1
      やなせたかし文化賞の意義、やなせたかしが文化賞に込めた思いとは
      山根
      今年も「やなせたかし文化賞」というバスが発車します。乗客は全国の幅広い文化、芸術から選ばれた作品や団体です。バスの目的地には、将来の夢と希望に満ち溢れた子どもたちが首を長くして待っているのです。そしてこのバスが、いつも満席であることを願います。
      やなせたかし文化賞は、やなせ先生が生前から常に思い続けてきたことが形になった賞だと信じます。
    • QUESTION2
      やなせたかしの思い出
      山根
      今から60年ほど前の話だが、某新聞社発行の週刊誌が「連載漫画」を広く募集したことがあった。「プロ、アマ問わず」とあったので、子ども向けの漫画ばかり描いていた私も腕試しにと応募した。
      数か月度の発表を見て驚いた。大賞は、やなせ先生の「ボウ氏」だった。顔のない帽子を被った主人公が、セリフなしで次々とドラマを展開する不思議な漫画だ。
      それまで私は、やなせ先生はメルヘン調の詩を書く詩人だとばかり思っていたので、こんな面白い漫画も描かれるのか!?
      私が驚いたのは「ボウ氏」が大賞をとったことではなく、当時すでに有名だったやなせ先生が、このコンクールに応募したとう事実だ。
      常に挑戦魂を忘れないやなせ先生に敬意を表するとともに、それ以降、私もその心意気を習って持ち続けている。ちなみに私の応募した作品は佳作だった。
    • QUESTION3
      コロナ禍における「子どもの文化」について
      または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは
      山根
      私の子ども時代は、物心ついた頃から世の中「戦争」という緊迫した空気に包まれていた。遊びといえば戦争ごっこ、夢は兵隊さんになること、街には「ぜいたくは敵だ」の張り紙があふれていた。
      だから好きな漫画の本も買ってもらえず、裕福な家の子から借りてこっそり読んでいた。終戦後は大変な時期もあったが、今やあらゆる本が出版され、子どもたちにとって好きな本が読める良い時代になった。
      私は子ども時代の「読書」は将来の人間形成に大いに役立つ文化のひとつだと思う。
    • QUESTION4
      コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ
      山根
      コロナ禍により、長い間「三密」を防ぐことを強いられ、学校はもちろん、外出もままならない皆さんはさぞつらい日々を送っていることでしょう。
      しかし、このような状況の今だからこそ読書のチャンスです。
      普段気にとめなかった本棚に眠っている本たちのページをめくりましょう。
      新しい物事や、知識の発見があるはずです。
      遊ぶことも大切ですが、学べるチャンスを有効に生かしましょう。

第1回やなせたかし文化賞 大賞受賞

tupera tupera

クリエイティブユニット

「第1回やなせたかし文化賞」大賞受賞について

記念すべき第一回の大賞を頂き、最も嬉しかったことは、活動を通してこれまでに出会ったたくさんの方から祝福を頂いたことです。
一緒に仕事をしてきた方や各地でワークショップやイベントをしてきた皆さんとの繋がりに、改めて感謝する機会になりました。
又これまでの自分たちの活動を振り返る良い区切りにもなり、今後も新鮮な気持ちで作品をつくり活動をしていこうと思いました。

コロナ禍における「子どもの文化」について
または子ども時代に触れるべき良心的な文化とは

演劇や映画、展覧会等、一つの空間に多くの人が集まって鑑賞するような機会が、コロナ禍で減ってしまいました。家の中でも、本を開いたり、オンラインやTV等で、触れられる作品はたくさんありますが、やはり現場のその空気の中で体感する経験は特別だと思います。文化的なエンターテインメントの場が途絶えることなく、収束後にまた盛り上がっていけるよう!自分たちも活動を続けていきたいと思っています。


子供には、一般的に“良い”とされるものを大人が押し付けるのでなく、多種多様な文化に触れ、そこからその子のアンテナにひっかかるものが見つかったらいいなと思います。みんなが素晴らしい!と言っているものを本当にそうか?と疑ってみたり、逆に、誰にも注目されていないようなものが自分を感動させたりすることもあるかもしれません。
先入観なく、いろんな作品を観て感じて、自分の引き出しをいっぱいにしてほしいです。

コロナ禍にいる子どもたちへのメッセージ

今やりたいと思っていることを、今できるかたちで、どんどんチャレンジしてください!
自然の中にも、町の中にも、家の中にも、面白いものがたくさんあふれています。
自分の目で、手で、心で、感じて、毎日を楽しんでいきましょう!