シンポジウム

第3回やなせたかし文化賞

シンポジウム レポート

日時:2024年12月8日(日)場所:南国市地域交流センターMIARE!

開会のご挨拶

岡本 篤志
公益財団法人やなせたかし記念
アンパンマンミュージアム振興財団 専務理事

やなせたかし先生ゆかりの地・南国市で、「第3回やなせたかし文化賞シンポジウム」と「やなせたかしソング演奏自慢コンテスト2024」を初めて同時開催することになり、本日はどんな相乗効果が生み出されるのか、ワクワク、ドキドキしております。やなせ先生の文化賞創設への思いや、やなせソングを様々な形で楽しまれている方々の作品に触れていただくことで、マルチな作家として活躍したやなせ先生をもっと深く知っていただき、さらに身近に感じていただければうれしいです。

来春にはNHKの連続テレビ小説「あんぱん」の放送スタートとともに、南国市、香南市、香美市を舞台にした博覧会「ものべすと」の開催も予定され、この地域には例年以上に多くのお客様がお見えになることが期待されます。私たちもやなせ先生が生涯のモットーとされた「人生は喜ばせごっこ」の心持ちでお迎えしようと、今から準備を進めております。本日はどうぞごゆっくりお楽しみください。

「第3回やなせたかし⽂化賞」選定委員によるトークイベント

選定委員長
里中 満智子
さとなか まちこ
マンガ家

やなせたかし文化賞は、やなせ先生の生涯を通じた活動につながるような、子どもの心を育てる創作、活動に対して贈られる賞です。子どもの心を育てるというと、絵本やアニメ、おもちゃなどいろいろあり、それぞれの分野で賞が設けられていますが、どの分野に属しているのか分からないものもたくさんあります。それらをひっくるめて、子どもの心を育てる創作、活動を選び出し、受賞を機に多くの人に知っていただきたいと考えております。

やなせ先生は漫画家、イラストレーター、詩人、プロデューサー、エンターテイナーなど、あらゆる活動を通じて人の心に優しさと安らぎを届けた人生でした。そうした先生の心を伝える賞として、子どもだけでなく、大人の心も育て、この世の中で無駄なものは何もない、みんな大切な存在だということを伝えている方々が受賞されています。どれも素晴らしい活動ばかりで、やなせ先生だったらどれを選ぶかなと想像しながら審査していますが、きっと先生なら全部選びたいとおっしゃるはず。だから、優劣をつけるのではなく、広く世の中に作品を知っていただくことで、子どもたちの心を育ててくださいというメッセージを伝えるつもりで選んでいます。今後もより広く、大きく、やなせたかし文化賞が発展することを、そして作品が世に出ることで、より多くの人の心が安らかに、温かくなることを祈っています。

  • 選定委員
    内川 雅彦
    うちかわ まさひこ
    高知新聞社 編集局 学芸部
  • 選定委員
    黒井 健
    くろい けん
    絵本画家・イラストレーター
  • 選定委員
    大木 由香
    おおき ゆか
    認定NPO法人高知こどもの図書館館長
  • 選定委員
    立原 えりか
    たちはら えりか
    童話作家
  • 選定委員
    牧野 鈴子
    まきの すずこ
    イラストレーター
  • DISCUSSION1やなせたかし氏との
    思い出

    • MC
      まずは、やなせ先生との思い出を振り返っていただこうと思います。特に、やなせ先生が責任編集を務めた文芸誌『詩とメルヘン』でご一緒された選定委員の皆様、どんなことが印象に残っていますか。
    • 立原 えりか
      今頃になると思い出しますが、やなせ先生は大変おしゃれな方で、「星屑同窓会」(詩とメルヘンに関わった作家たちの同窓会)のパーティーで電飾がいっぱいのイルミネーションつきのシャツをお召しになって、歌ったり、踊ったりされたことがありました。感電しないのかなと冷や冷やしながら見守った思い出をよく覚えています(笑)。
    • 牧野 鈴子
      『詩とメルヘン』に絵が採用された際、私は20代の新米でしたが、やなせ先生はどんな作品にも決して駄目出ししたり、注文を付けたりされなかったので、萎縮(いしゅく)することなく、様々な表現方法に挑戦することができました。『詩とメルヘン』をきっかけに挿絵の仕事も入るようになり、やなせ先生は仕事の幅が広がることをすごく喜んでくれました。
    • 黒井 健
      若き日の私にとって、きら星のごときイラストレーターたちが描かれていた『詩とメルヘン』は、憧れの存在でした。だから、イラストを描いていた『いちごえほん』(やなせ氏が編集長を務めた雑誌)が休刊になり、どうしようと落ち込んでいたところに、「詩とメルヘン」から依頼をいただけた時は、本当にうれしかった。完成度の低い絵は絶対に出せないと奮い立ち、とにかく一生懸命に描きました。当時は投稿された詩に絵を添えるという体験をしたことがなく、一体どう表現したらいいのかと悩み抜きましたが、おかげで後年、『ごんぎつね』の絵を生み出す時の大きな糧となりました。
      やなせ先生に直接声をかけられたのは、第9回サンリオ美術賞をいただいた時でした。「黒井君はいい人だから、この賞をあげるね」って言われたんです。若い頃から「黒井君はいい人だけど」と前置きされて、告白を断られてきたので、「いい人」という言葉は好きじゃなかったんです(笑)。でも、「いい人はいい絵を描く」という真意だったと知り、大好きな言葉になりました。やなせ先生は「心は絵にあらわれる」と考えていたんじゃないでしょうか。
  • DISCUSSION2これまでの
    「やなせたかし文化賞」を
    振り返って

    • MC
      過去2回の「やなせたかし文化賞」を振り返り、選定の際に心がけたことや苦労したこと、印象的な受賞者などについてお聞かせください。
    • 内川 雅彦
      選定にあたっては、子どものための良心的な作品であるかどうかはもちろんですが、やなせ先生ならどう評価するだろうか、そして、先生を語るうえで欠かせない「人生は喜ばせごっこ」という考え方、優しさ、ユーモア、サービス精神をキーワードにして選ぶようにしてきました。
    • 牧野
      私自身は、自分が感動したり、興味をもったりしなければ、人には薦められないという考えで向かい合っています。これまで出会ったことがないような候補者や作品を知る機会にもなり、大変勉強になっていますね。第2回で「NPO法人ぷるすあるは」を大賞に選んだ時は、報道でちょうどヤングケアラーが話題になっていた時期で、こころの不調を抱える親のもとで育つ子どもたちの心に寄り添った活動をしていると知り、とても感動しました。やなせたかし文化賞を受賞することで、団体の存在がヤングケアラーの子どもたちにも届いてほしいという願いを込めました。
    • 大木 由香
      最近は書店の減少とともに、絵本など子ども文化に触れる機会が少なくなっています。こうした賞が存在することで、受賞作品を紹介する機会が創出され、こういう作品があるんだ、作家さんがいるんだということを知っていただくことができ、多くの方に絵本を読んでみようと思うきっかけになってもらえればと願っています。
  • DISCUSSION3「やなせたかし文化賞」
    に期待すること

    • MC
      今回の「第3回やなせたかし文化賞」には、どんな期待をされていますか。
    • 内川
      やなせ先生は「まんが甲子園」や「4コマまんが大賞」にかかわり、個人的にも支援されるなど漫画文化や後進の育成を大切にされていました。やなせたかし文化賞は他薦で、すでに作品を発表している絵本作家やアーティストなどが目立つように思われるかもしれませんが、「NPO法人ぷるすあるは」のように新しい分野の団体や、新しく多様な才能の発掘につながっていけば、賞としてより価値が出てくると思います。
    • 大木
      回を重ねるごとに、知ってもらえる作品がそれだけ増えることになります。今回はこんな本が選ばれたんだ、子どものためにこんな文化活動をしている団体がいるんだと、多くの方に広く知っていただく機会になりますので、末永く継続していただけることを期待しています。
    • 牧野
      今までお会いしたことのない才能がある人たちとの出会いを楽しみにしています。
    • 立原
      見たことのないイラストや、私には分からないような活動をされている方に会えることをとても楽しみにしています。そろそろ候補作品の資料が届く頃かと思いますが、資料を見るのが、怖いような、楽しみなような、そんな感じです。
    • 黒井
      イラストも社会と呼応しながら変化を遂げてきました。昔は画家を目指している方が描いていましたが、我々世代からイラストレーターが新しく加わり、現在ではアニメーターや漫画家、キャラクターデザイナーの世界からも携わる人が増え、新陳代謝が進んでいます。描き方もデジタルと手描きで二極化し、今回が選定委員として初めての仕事になりますので、慌てていろいろ勉強しているところです。一番気になっているのは、受賞者のその先です。私はサンリオ美術賞をもらい、大きな自信、支えができた気がしました。だから、文化賞とは功労賞なのか奨励賞なのか、そういう視点も気にしながら選んでいきたいと思っています。候補者の受賞後の活動がどういう要素を成していくのかということも含めて考えていきたいですね。

他の選定委員 動画メッセージ

早川 史郎作曲家

これまでの選定で、候補者の資料が入った大きな段ボール箱が届いた時は、子どものようにうれしくなりました。本を読んだり、絵を見たりするうち、やなせ先生と一緒にいるんだなという気持ちになれました。私が専門とする作曲のコンクールでは、1作品の審査は2分ぐらいで終わりますが、やなせたかし文化賞の場合は、箱から宝物を取り出すように、じっくりと審査することができます。絵を見たり、本を読んだりして、心をときめかせている子どもたちと同じ気持ちになれているのかと思うと、ワクワクしてきます。第3回の選考でも、若い方を中心に、音楽の分野も含め多くの方がトライしてくれることを楽しみにしています。


山根 青鬼漫画家

戦争が起きたり、事件事故や自然災害が相次いだりするなど、国内外で暗いニュースが多い中、やなせたかし文化賞は我々の心に一筋の光明を与えてくれる存在です。やなせ先生は生前、人々の心を和らげるメルヘン的な詩や漫画を描いてきました。この優しさと愛情が込められているのが、やなせたかし文化賞です。これまでの入賞作品はいずれも読者に夢と希望を与えるものばかりで、選定委員としてうれしい限りです。これからもやなせ先生の思いがそのまま伝わってくるような応募作品が届くことを願っています。注文をつけるとしたら、絵本はできれば、タブレットやスマホではなく、紙のページをめくることで、子どもの心をひきつけるものであってほしいですね。また、私が漫画家だからでしょうか。応募作品に漫画が少ないことを少し残念に思っています。やなせ先生も1点ぐらい漫画を選んでほしいと思っているのではないでしょうか(笑)。今回も素晴らしい作品を拝見できることを楽しみにしています。

やなせたかしソング演奏⾃慢コンテスト2024 & スペシャルコンサート

やなせたかし氏は漫画や絵本などの制作だけでなく、子どもから大人まで幅広い世代に歌い継がれる楽曲を数多く創作しました。この日は、そうした名曲の中からお気に入りの曲を選び、好きな仮装で歌ったり、演奏したりする動画コンテストも開催されました。最終選考に残った8作品の中から、来場者の人気投票を踏まえ、9名の審査員により1~3等賞、特別賞のやなせスタジオ賞、やなせたかし文化賞選定委員賞が選ばれ、それぞれに賞状と副賞が贈られました。


イベントの最後には、やなせたかしソングでおなじみの童謡歌手、大和田りつこさんと岡崎裕美さん、「アンパンマンのマーチ」で有名な「ドリーミング」によるスペシャルコンサートも開催され、ステージと客席が一体となって、やなせ氏のクリスマスソングや「希望のハンカチ」「勇気りんりん」などのヒット曲を次々と歌い上げました。

閉会のご挨拶

仙波 美由記
公益財団法人やなせたかし記念
アンパンマンミュージアム振興財団 事務局長

「やなせたかしソング演奏自慢コンテスト2024」では、今年もユニークな作品がたくさん集まり、選考にあたられた先生方は大変悩まれたことと思います。最終的にはやなせ先生の「人生は喜ばせごっこ」にのっとった、演奏者自身も楽しみ、会場を大いに沸かせた作品が受賞されたものと理解しております。また、やなせたかし文化賞のほうは、やなせ先生と生前に深い親交があった5名の選定委員にお集まりいただき、やなせ先生との思い出や第3回への展望について大変貴重なお話をうかがうことができ、来年の発表がとても楽しみになりました。最後に、やなせたかし記念館は現在、来春の連続テレビ小説「あんぱん」に向けて改修工事を進めており、お色直しをしております。2025年3月29日、我々職員一同、新しくなったやなせたかし記念館で皆様をお出迎えできることを心から楽しみにしております。来年もどうぞよろしくお願いします。