シンポジウム

第1回やなせたかし文化賞

シンポジウム レポート

日時:2018年12月15日(土)場所:新宿区角筈区民ホール

開会のご挨拶

明石 猛
公益財団法人やなせたかし記念
アンパンマンミュージアム振興財団理事長

当法人は平成7年に漫画家やなせたかし先生の支援を受け、同氏のふるさとである高知県香美市香北町に創立されました。翌年に「やなせたかし記念館アンパンマンミュージアム」を開館し、現在は、やなせ先生と、やなせ先生とゆかりのある作家の方々の作品の保管・管理、研究、公開に加え、漫画などの芸術文化の普及、振興に関する事業を幅広く行っております。開館22年目には400万人もの国内外のご来館者を迎えることができました。

今回、「やなせたかし文化賞」を設立しましたのは、当財団宛てのやなせ先生の遺言に「子どものための良心的な漫画、絵本、作詞作曲、芸術文化を行った個人、団体に対して、2年に1度やなせたかし賞を贈る制度を作ること」とあったからです。やなせ先生は、マルチクリエーターとしてさまざまな仕事に携わってきました。この賞では、第二のやなせたかし先生のような作家や団体を見出し、その活動を奨励する賞に育ててまいりたいと願っております。

やなせたかし童謡コンサート 大和田りつこ×やなせうさぎ

やなせたかしオリジナルコンサートに数多く出演した童謡歌手、大和田りつこさんと、やなせたかし氏の分身である、やなせうさぎ氏による「やなせソングミニステージ」。やなせ氏との思い出エピソードが語られるとともに、「手のひらを太陽に」「やなせうさぎの歌」「夕日にむかって」「おいしいねソング」「希望のハンカチ」の5曲が披露されました。

「やなせたかし文化賞」選定委員によるトークイベント

  • 選定委員長
    里中 満智子
    さとなか まちこ
    マンガ家
  • 選定委員
    ちば てつや
    ちば てつや
    漫画家
  • 選定委員
    宇野 亞喜良
    うの あきら
    イラストレーター
  • 選定委員
    牧野 鈴子
    まきの すずこ
    イラストレーター
  • 選定委員
    内川 雅彦
    うちかわ まさひこ
    高知新聞社 読者サポート部長
  • 選定委員
    古川 佳代子
    ふるかわ かよこ
    認定NPO法人高知こどもの図書館館長
  • DISCUSSION1「やなせたかし文化賞」
    について

    • MC
      まず「やなせたかし文化賞」について、あらためて教えてください。
    • 里中
      やなせたかし先生は、漫画家、デザイナー、イラストレーター、作詞家、プロデューサー、さらには歌手でもありました。何が本職ということではなく、すべての表現活動がやなせたかしという一つの作品だったと思います。とても幅広い表現力をお持ちの方で、その根底にあるのは、平和への思いや子どもを育てる環境づくりであり、どうすればみんなが幸せになれるだろう、どうしたらみんなの心が豊かになるのだろうといつもお考えになっていました。ですから、この「やなせたかし文化賞」も、イラストであれ、作詞作曲であれ、身体表現であれ、どんな表現活動でもどんな作品でも、やなせたかしの心を持った方に賞を差し上げたいなと思っています。今、一生懸命選定を行っています。どの作品が受賞するのか、ぜひ楽しみにしていてください。
  • DISCUSSION2やなせたかし
    との思い出

    • MC
      選定委員の皆さまは、やなせ先生との思い出をたくさんお持ちだと思います。特に印象に残っていることをお聞かせください。
    • 里中
      世の中、丸く収まればいいってことがありますよね。いろいろ思っていても、「ここはあまり突っ込まないでおこう」とか、「この場が和めばいいんだし」とか。やなせ先生は優しくて本当に怒らない方でしたが、筋が通らないことに対しては「いや、それはダメだ」とものすごくキッパリおっしゃいました。やはりいろいろなことに対してきちんとした視点と覚悟をお持ちになっていて、一つひとつの物事に非常に真剣に向き合われていましたね。私もつい年のせいにして逃げたくなる時がありますが、自分を戒めるためにその姿をよく思い出しています。
    • ちば
      やなせ先生が喜寿を迎えられた時、奥様が亡くなられてまだそんなに経っていなかったのに、「僕は結婚するぞ」とおっしゃったんです。「ええ、もう見つけたの?」と驚いていたら、喜寿のお祝いのパーティーでモーニング姿のやなせ先生がウエディングドレスを着た里中さんを伴って現れました。漫画家仲間はみんな騙されましたね(笑)。やなせ先生は、いつも誰かを笑わせたい、楽しませたいという気持ちのあった人で、そういう楽しい思い出がたくさんあります。
    • 宇野
      僕は、やなせさんが『イラストレ』という雑誌の編集長をされていた時に取材を受けたことがあります。「漫画家は10センチの原稿を1.2倍や1.5倍のサイズで描くけれど、宇野さんはどうしているの」と聞かれて、「そういう時は、計算して測って描いています」と答えたら、「もっと簡単な方法があるよ」と、翌日通常1センチの目盛りが1.2センチや1.5センチになっている便利な定規を送ってくれました。そんな恩恵を受けた思い出が一つあります。
      一方で、僕はやなせさんに貸しがあるんです(笑)。僕が自作の句集に挿絵をつけて、やなせさんに送ったら、その中の「蓄音機 聴くノスタル爺や ラムネ飲む」という句の「ノスタル爺や」を使わせてくれと。やなせさんの『ノスタル爺さん』という歌は、実は僕のアイデアなんです。僕は「ノスタルジア」そのままの「ノスタル爺や」のほうがいい、“さん”はいらないんじゃないかと思っているんですけど、そんな恩を売りました(笑)。
    • 牧野
      私は『詩とメルヘン』に絵を掲載させていただいた時に、やなせ先生にお会いしました。その時、先生が「僕は善い人としか仕事しない。牧野さんは、どうやら善い人のようだから、これからもお願いします」と言われて、私はそれまで自分が善い人かどうかなんて考えたこともなかったんですけれど、以来、善い人でありたいと意識するようになりました。その後、『詩とメルヘン』が休刊になって、私が喪失感から少し弱音を吐いた時、先生から「お気張りください」とお手紙が届きました。その言葉に「頑張れ」というよりも、「甘えずに自立して前に進みなさい」というふうに背中を押されたように感じて、その二つの言葉を今も肝に銘じて暮らしています。
    • 内川
      やなせ先生はいくつもの顔をお持ちでしたが、実は高知新聞社で新聞記者を務めていた時代がありました。1946年に入社されて、当時は紙の使用が制限されていたために月刊紙だったんですけど、その縮刷版を見ると、やなせ先生は記者として記事を書いていたほか、連載小説の挿絵や4コマ漫画を描いたり、今では考えられないことに広告の挿絵まで描いていたり、八面六臂の活躍をされていたようです。その後、のちに奥様となられるのぶさん(小松暢さん)が先に退社されて、やなせ先生も在籍一年ほどで退社されて上京されました。ですから、高知新聞社は、やなせたかしさんを世に送り出した良い会社なんです。
    • 古川
      NPO法人高知こどもの図書館は、日本で最初の民間の図書館です。19年前の開館当時、やなせ先生は何の面識もないのに、「頑張りなさい」というメッセージとともに寄付金を贈ってくださいました。本当にありがたく、励みになりました。
      先生はご著書の中で、「子ども向けの作品をたくさん書いているけれども、子どもたちに迎合することはない。わかりやすいように書くけれども、中身を落とすことはない。読み応えのあるものを届けられるよう、大人向け以上に真剣に仕事をするんだ」というふうなことをおっしゃっていました。私たちも、こうした志をしっかり持って、子どもたちに素晴らしい作品を届けられる図書館にしたいと思っています。
  • DISCUSSION3「やなせたかし文化賞」
    に期待すること

    • MC
      「やなせたかし文化賞」には、どんな期待をされていますか。
    • 里中
      先ほど宇野さんが『ノスタル爺さん』の話をなさいましたけど、やなせ先生は、あの歌で本気で紅白(歌合戦)を狙っていました(笑)。12月31日とリハーサルのあるその前日の2日間は予定を空けていたんです。残念ながら出場機会はありませんでしたが、先生は、それほどいつも本気だったんですね。ですから、この賞にも本気で活動されている方がたくさん応募してくださるといいなと願っています。
    • ちば
      『アンパンマン』はじめ、やなせ先生のキャラクターは世界中の子どもたちを元気づけていますよね。そういう意味でも、「やなせたかし文化賞」が「今回は誰が選ばれるんだろう」と子どもたちの間で話題になるような、ノーベル賞やそのほかの大きな賞に匹敵するほど注目される賞になったらいいなあと思っています。
    • 宇野
      僕がやなせさんを最初に知ったのは、グラフィックデザイナーとしてのやなせさんだったんですけど、やなせさんは本当に好奇心が強くて、実際になんでもやってしまわれる人でした。だから、この賞も子どもの文化から大人の文化まで、出版物から演劇まで、あらゆる文化が対象になっています。2年に1度の賞ですが、その間、候補者を探したり、その活動を考察したりというよりは、受賞時期にパッと浮上した面白い人に授与するという方法が、やなせさんらしい気がしています。
    • 牧野
      今の子どもたちは、パソコンやゲームなど生まれた時からデジタルの世界に浸かっていますよね。でも、紙の質感を感じながらページをめくる楽しさや、お芝居などで同じ場所にいる人たちと共有する楽しさを忘れてほしくないなと思っています。そうした子どもの芸術文化に光を当てるような賞になっていくことを願っています。
    • 内川
      「子どものための良心的な作品」というのが本賞の趣旨になっていますが、それに加えて、『アンパンマン』に代表されるように平和や正義、勇気、助け合い、人間愛、優しさなどが通底している作品が多く出てくることを期待しています。
    • 古川
      地味だけど、しっかりした活動をされている人。その人の励みになるような賞になればうれしいなと思っています。やなせ先生から「よう見つけたね、あの人によう賞をあげたね」と褒めていただけるような方に巡り合えることを願っています。

朗読劇『霧野仙子』 Project Nyx(プロジェクト・ニクス)

やなせたかし氏の物語に宇野亞喜良氏がイラストをつけた限定1000部の絵本『霧野仙子』(かまくら春秋社)を現代パフォーマンスの実験演劇ユニットProject Nyxが演劇化。売れない漫画家ヤルセ・ナカスと美少女霧野仙子とが織りなす愛のファンタジーの世界に観客を引き込みました。
読売新聞 2019年1月30日付け

シンポジウム開催のお知らせ

「アンパンマン」の作者であり、本賞の創設者であるやなせたかしについてのシンポジウムを開催し、本賞の意義や、やなせたかしの思いをご紹介する機会を設けさせていただきます。
選定委員によるトークイベントのほか、歌手の大和田りつこ氏によるやなせ作詞等の童謡コンサート、本賞委員の一人である宇野亞喜良氏とやなせのコラボレーション絵本「霧野仙子」の朗読劇を実験演劇ユニットProject Nyxがお送りいたします。

日時と場所

日時:
2018年12月15日(土)
13:30~16:00(予定)※開場13:00
場所:
新宿区角筈区民ホール
(〒160-0023 東京都新宿区西新宿4丁目33−7)
入場料:
無料

シンポジウム内容

・やなせたかしの童謡コンサート
大和田りつこ

・選定委員によるトークイベント
選定委員長:里中満智子
選定委員:内川 雅彦宇野 亞喜良ちば てつや古川 佳代子牧野 鈴子

・大人のメルヘン絵本
「霧野仙子」朗読劇 Project Nyx

一般観覧希望の募集について

募集は締め切りました。多数のご応募ありがとうございました。